長編小説 「愛と誠」(職員室編)

第23話 黒幕は他にいる!

数学科準備室の外にある非常階段で、パンチと誠が岩島津一人を囲む様子は、
まるでどこかの不良グループが優等生をカツアゲしているみたいだと、誠は思った。
数学科は3階にあったので、もし追いつめられた岩島津が、ここから飛び降りでもしたら、
ケガくらいでは済まないな・・・などという事まで、誠の頭をよぎっていた。

まずパンチが言った。
「おいマコト! 今日の対面式は、このウラナリの言う通りに進めた。間違いねえな?」
「あ、はい。いろいろ教えてもらいながら、何度も台本を書き直しました。」

「さあて、ウラナリよ。お前の目的は何だ?」
「そのウラナリっていうの、やめていただけますか。
まあ、あなたをパンツと呼んでいいとおっしゃるなら話は別ですけどね。」
「はぐらかすな。オレの質問に答えろ。」
「さあて、何のことでしょうか?」
「マコトを操って、愛称の件が滅茶苦茶になるように仕向けたろ?
お前、ずいぶん熱心に生徒会室に通って、マコトに入れ知恵してたじゃねぇか。
それにしちゃあ、マコトが一番困った時には、駆けつけるどころか高見の見物決め込んでたよな。
このパンチ様の目は節穴じゃねぇぜ!」

誠はそれを聞いて、驚いたように岩島津の方を向いた。
「岩島津さん、それ、本当なんですか?
オレ、岩島津さんを信じて、言われた通りやってきました。
あれ全部、対面式を失敗させるためのアドバイスだったんですか!」

岩島津は終始、余裕の笑みを浮かべていた。
非常階段から西の方に夕焼けが見えていた。
岩島津は夕陽の方に向きを変えてから、ゆっくりと話し出した。

「ここから見る夕陽は、なかなかのものでしょう?
お二人とも、穏やかな心を取り戻すために、しばらくご鑑賞されたらいかがですか?」
「岩島津さん、ひどいですよ!」

「誠くん、君が何を怒っているのか、私にはサッパリ解らない。
たしかに私はいろいろなアドバイスをした。
だが、それを取捨選択し、判断を下す自由は君の方にあった。
成功しても失敗しても、それは生徒会担当者であり、最終判断した君の自己責任だ。
仮に、パンチ先生がおっしゃるように、
私が君をワナにはめようという意図があったとしても・・・だ。
損したからと言って、競馬の予想屋を責められない。違うかね?」
パンチが遮った。
「ゴルァ!自己責任とかじゃねぇんだよ。マコトを罠にはめた事は間違いねえな!」

岩島津は一貫して、冷静かつ挑発的な話し方を変えなかった。
「そのような質問に答える義務はありませんね。
ところでパンチさん?失礼だが、あなたは教職何年目ですか?」
「20年だ。それがどうした!」

「私は10年です。あなたの方が先輩だ。
パワハラについては説明するまでも無いでしょう。
先輩教師から非常階段に呼び出されて恫喝されました、なんて上に報告するのは、
私も面倒だし、是非とも避けたい。パンチさん、今日はこのくらいにしておきませんか?」

「おい、ウラナリ。オレはこう見えても案外冷静だぜ。
お前の挑発に乗るようなヘマはしねぇ。マコト、帰るぞ」
パンチは、マコトの腕をつかむと、校舎内に入った。
その後ろ姿を、岩島津は不敵な笑みを浮かべながら見送った。

廊下を歩きながら誠が言った。
「ねえパンチさん、白川さんは、対面式が失敗したのは愛さんのせいだと思ってるみたいで、
しばらくは女王と関わるなとか言われちゃったんですけど、
実は、黒幕は女王じゃなくて岩島津さんだったって事ですよね。
いやあ、ビックリしたなあ、もう。やっぱり岩島津さんて、超ムカつきますよ。
パンチさんもそう思いませんか?
あ、オレもこれからはウラナリって呼ぶことにします。
そうだ、愛称もウラナリにしちゃえばいいんだ!そうですよね、パンチさん!」
「うるせぇ!考え事してんだ。少し黙れ!」
「すいません・・・」

二人はそのまま黙って体育教官室まで戻った。教官室に着くと、パンチがポツリと言った。
「マコト、よく聞け。岩島津は黒幕じゃねえ。本当の黒幕は他にいる。」
(続く)

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