長編小説 「愛と誠」(職員室編)

第24話 女王との賭け

パンチと誠から解放された岩島津が、数学科準備室に戻ると、
逆にちょうど部屋から出てきた愛と、バッタリ出会う恰好になった。

「ああ、岩島津さん、良かったわ、いらっしゃって」
「この私に御用ですか?」
「そうです。あちこち探して、さっきも一度こちらへ伺ったんですけど、
なかなかいらっしゃらなくて・・・。今、お忙しいですか?」
「ええ、ちょっとうるさい連中につきまとわれていましたが、もう大丈夫です。」
「よかった。実は・・・」

二人は準備室のテーブルを挟んで向かい合って座った。
愛は、自分が見ていない対面式の様子を尋ねたり、
自分に対する柏田や白川の発言内容を、詳しく報告した。
そして、自分の周囲で起きている出来事のカラクリについて、
岩島津の見解を求めたのだった。

岩島津は足を組んだまま、一通り話を聞き終えると、一言
「愛さん、だいぶ参っているようだね。」と言った。
「えっ?参ってるって、何に?」
「今の状況にだ。普通に考えればすぐに解るはずの簡単な答が、
まったく見えなくなっている。
これが参っていないというなら、何だというのかな?」

愛は急に不機嫌な表情になった。
「岩島津さんて、そういう言い方しかできないの?
私は、あなたを頼っているから、だからここに来たのよ。
パンチ先生は、口は悪いけれど、あなたよりもずっと人間としての暖かみを感じる。
誠くんだって、おっちょこちょいよ。でも相手を気遣ってくれる。
あなたは頭は優秀かもしれないけど、大切なものが欠けているんじゃないかしら!」

「フフフ、愛さん。貴方も、誠くんに負けず劣らずのわからんちんだね。
これは僕なりの気遣いであり、思いやりだ。
分析を依頼してくださったクライアントには、まず客観的事実を、
ありのままに述べることから始めなければならない。
ただの慰めは、問題を解決する上で何の役にも立たないのさ。
それでも尚、あなたに都合の良い分析で塗り固めた、無責任な回答だけを
欲しがるのであれば、悪いが他を当たってくれたまえ。」

愛は何も言わずに立ち上がると、そのまま準備室を出て行き、思いっきりドアを閉めた。

岩島津はソファで足を組んだまま、怪しげな笑みを浮かべ、独り言を喋っていた。
「愛女王様、賭けようか?あなたが、何分後にここに戻ってくるかをね。
30分だ。30分以内に、君は再びこの岩島津弘の前に現れる。
ただし、今度は女王としてではなく、私に仕える者としてだ。アーッハッハッハ・・・」
(続く)

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