長編小説 「愛と誠」(職員室編)

第7話 波乱の学年会

4月5日の朝から、立て続けに行われてきた、たくさんの会議も、
そろそろ最後の一つを残すだけとなった。
最後の集まりは、拡大学年会と記してあった。
「学年会」は通常、学年ごとに担任教師だけが行う会議だが、
拡大と付く場合は、副担任も交えて行われる。
ただ、拡大版が開かれるのは、年度初めと遠足の前くらいのものだ。

愛は2年生の副担任に配置されていた。
会議が行われる、相談室という部屋には、既に何名かの教員が
着席していて、誠もその中にいた。
誠は愛に気づくと、力の限り手招きして、愛を自分の隣りに座るよう促した。
愛は、机の上に置かれたレジュメで、確かに誠が同じ2学年の副担任であり、
しかも愛の隣りのクラスであることを確認した上で、誠の招きに応じた。

「愛さん3組で、おれ2組です。やっと堂々と隣りに座れますよ。ははは」
「私も光栄よ。でも残念だわ。この順番で座るの、たぶん今日だけね」
「またそういうイジワルを〜。オレ泣きますよ、柏田さんみたいに」
「どうぞ。遠慮はいらないわ。ふふふ」
今日は、ミステリアスというより、幼い弟をあやすような笑いだった。

あらためてレジュメを見ると、2年生は5クラスである。
担任は、1組、国語科の火野、2組、社会科のJOE、3組、数学科の岩島津弘・・・
と、知らない名前が続いている。
岩島津は、太い黒縁眼鏡でインテリっぽい風貌だ。
4組は英語科の高浜由紀。美人だがちょっとばかり冷たそうな印象を受ける。
5組の座尾権太(ざお ごんた)は、丸坊主にヨレヨレの白衣という、怪しい出で立ちの生物教師。
副担任の方は、1組がパンチ、2組が誠なので、生活指導部が並ぶ形になった。
パンチが大声で話しかけて来るので、誠は愛と話すチャンスを奪われていた。

主任の火野が、開会を宣言した。
火野は、声も小さめで、近所の公園で孫と遊ぶのが似合いそうな
優しいおじいちゃん、という印象の人だった。
「え〜、それでは、拡大学年会を始めます。
え〜本校には、多様な生徒が在籍していますので、担任副担任が協力してですね、
え〜、一致団結して指導にあたる、という伝統が、え〜、あります。
どうぞ、これからの1年、よろしくお願いします。
え〜では〜、最初に軽く自己紹介しておきますか。
私は学年主任で、国語科の火野です。じゃあ次、JOE(ジョウ)さん」

火野主任の言葉には「え〜」がやたら多かった。
JOEは鼻ヒゲを生やしていたが、どちらかというと和風な感じで、
なぜ横文字名前のJOEなのか、よくわからなかった。
ゆっくりとした、浪花節のような話し方であった。
「いぇ〜っと、ですねっ。地歴科のJOEです。ハイ・・・」
「次は、え〜3組の岩島津さん」・・・

担任がひと通り回った後、副担任に番が回って来た。
誠は、今度ばかりは普通にやろうと決めていたので、
「台場誠です。体育科です。よろしくお願いします」とだけ言った。
すかさずパンチが、
「あれ?マコトって呼んでください、じゃねぇの?ひゃ〜っはっはっは」
と冷やかしたので、周囲から笑いが起きた。

矢吹が「え〜、次は3組の汐留さん」と指名した。
しかしその時、愛は9人のメンバーとは目を合わせることもないまま、
「私は何も言うことはありません」と言った。

沈黙の時間が流れた。
余りの意外な発言に、全員が愛に注目したまま、固まっていた。

誠は理解できなかった。
「愛さん、一体何を始めようと言うんだ?もしかして・・・女王マジック?
この場にいる9人が、今から7分後にひれ伏すのだろうか?
わからない!教えてくれ!」
誠は心の中で叫び続けた。
(続く)

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