長編小説 「愛と誠」(職員室編)

第9話 女王の面接試験

愛は、謎の「自己紹介ボイコット」から、一転して普通の自己紹介を済ませた。
一同はただ呆気にとられるばかりだったが、愛の発言はまだ続いた。
「実はこの場をお借りして、私からお願いがございます。
総務部では、このたび、懸案となっている愛称問題の検討委員会を
仕切らせていただくことになりました。つきましては、
ただ今から何名かの先生方に、委員就任の要請を行います。
まず、岩島津さん。ご協力いただけますか?」

岩島津弘は、表情を変えることもなく、
「なるほど、そういうことでしたか・・・。いいでしょう。」と頷いた。
「次に、パンチさん、是非ご協力お願いします」
「おい!女王! 今さっきまでケンカ売って来てたくせに、
今度はいきなり協力だぁ?わかるように説明しろってんだ!」
「パンチ!素直に喜びなさい。女王の面接試験にパスしたことをね・・・」
高浜由紀がそう言うと、パンチは怪訝そうな顔ながらも、大人しくなった。
愛は、続いて高浜由紀の方を見た。そして、「最後にもう1人・・・」と言い始めた時、
高浜由紀の「私は遠慮させていただくわ」という言葉によって遮られた。

愛はポツリ「そう、残念ね・・・」とだけ言うと、全員の方に向き直り、発言を続けた。
「愛称問題検討委員会は、2学年からは、ご覧のように私を含め3名ということになりました。
現在、1学年の会場でも、柏田主任が要請を行っております。
皆さんのご協力に感謝します」
言い終えて、愛は着席した。すると、
「あのう・・・僕も委員会に入れてもらえませんか?」
という、誠の声が聞こえた。愛は「そのうちね」と即答した。

自己紹介の後は、年間スケジュールの確認と、遠足の引率者決めくらいで、
拡大学年会はすんなり終わった。

職員室に戻った誠は、またもや総務部の方に近づいて行った。
「愛さん・・・。またいろいろ尋ねてもいいですか?さっきの、何なんですか?」
「さっきの、だけじゃ解らないわ。」
「パンチさんを怒らせたと思ったら、急に態度変えたり・・・
愛さんの委員会のメンバーに、どうして僕は入れてくれないのか、とか・・・」

「わかった。教えてあげるわ。
私は今日の学年会で、委員に適した人材を探すためのテストをした。
予期せぬ混乱に対して、誰がどういう反応をするか観察したのよ」
「ええ〜っ?それが女王の面接試験ですか?」
「その通り。まず、パンチは、どんな状況下であっても、
考えていることをズバリ言い切る信念と、強さを示した。
岩島津は情に流されず、冷徹なまでに論理的な判断で行動できる。
そして高浜由紀。彼女だけは最初から、私の打った芝居と、
その目的までの、すべてを見抜いていた・・・」

「僕は、僕はどうだったんですか?」
「聞きたい?」
「ハイ、聞きたいです。何を改善すればチーム愛のメンバーになれるのか」
「ふふふ。それは良い心がけね。じゃあアドバイスするわ。
あなたは、その場を丸く収めるためなら、自分一人を悪者にしちゃう人ね。
あなたのような人がいれば、一見、チームはまとまるわ。
でも黒を白にしてまで、和を重んじようとすれば、チームはおかしな方向に行く。
チームでやる仕事には、優しさだけでなく、厳しさも必要よ。」
「そんな〜。急に厳しくなれなんて無理ですよ〜」
「そんなにガッカリすることは無いわ。あなたは惜しかったのよ。
少なくとも、学年主任の火野をはじめ、あの場で、ただオロオロしてただけの連中よりも
ずっと見どころがあるわ。メンバー入りの日は案外近いかもね」
「精進しま〜す。ところで愛さん、あの高浜って人、
愛さんの誘いを断ったってことは、チーム愛の邪魔をしようとか企んでたりして・・・。
だって、何だか上北台の女王の座を奪われてたまるか〜みたいな目つきでしたよね」
「ふふふ、誠くんは、観察力よりも想像力の方が優れているわね。
でも心配いらないわ。あの人もプライドを持っている。
正々堂々、正面から私たちに戦いを挑んでくるはず。
どちらが女王に相応しいか、決着をつけるためにね・・・」

誠は静かに立ち上がると、愛の方を振り返って、
「おれ、何があっても愛さんの味方ですから。
気持ちはチーム愛の一員ですよ」と言った。
愛は「ア・リ・ガ・ト」とだけ言うと、事務作業に戻った。
誠も生活指導部に戻ろうとしたが、その途中で岩島津弘とすれ違った。
すれ違いざま、誠は岩島津の声を聞いた。
「気持ちはチーム愛・・・か。フッフッフ・・・」
岩島津は、誠と愛の会話を立ち聞きしていたようだった。
「台場君、覚えておきたまえ。気持ちだけで女王を守ることはできない。」
「えっ?な、何ですか?・・・」
誠の問いかけには答えず、岩島津はそのまま歩き去った。
誠は、何だかこれから、とてつもない騒動に巻き込まれそうな予感がした。
(続く)

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