長編小説 「愛と誠」(職員室編)

第12話 女王の戦略プラン


4月5日という、長い長い1日が終わろうとしていた。
帰り支度を始めている愛のところに、再び誠がやってきた。
「な〜んか、疲れちゃいましたね〜。
明日が始業式なんて、考えたくもないな。ははは・・・」
「なあに、誠くん。早く用件を言わないと、私もう帰っちゃうわよ」
「あっ、じゃあ駅まで歩きながらお話してもいいですか?」
「それって、一緒に帰りましょうっていう意味でしょ。
私、ナンパされるなら、ズバリ言われるのが好きだわ。
誠くんて、ほんと、ハッキリしないわね」
「じゃ、じゃあ、今日、さっそく立川あたりでお食事でもいかがですか?」
「調子に乗らないでね。さあ、帰るわよ」
「わっ!待ってください。オレ、まだ着替えが・・・」

誠は猛ダッシュで着替えると、玄関で何とか愛に追いつくことができた。
愛も、本気で誠を振り切るつもりはなく、ゆっくりと歩いていた。
日はずいぶん延びて、外はまだ明るかったが、肌寒さの残る通りを
2人は、並んで上北台駅に向かっていた。
「愛さん、もう一つだけ教えてくれませんか?」
「何を?」
「愛称のことです。委員会はできたけど、結局のところ、
僕らの愛称って、どうなるのかなと思って・・・。
そうそう、愛称なんて誰かが考えてくれるって、愛さん言ってたじゃないですか。
委員会以外の人が考えるってことですか?」
「あなた、本当に心配性ね。もう、仕方ないわ。タネ明かししてあげる。」

駅に着いた2人は、エスカレーターを登る間、本題を中断した。
「あの・・・。僕、東中神なんです。立川乗り換えです。」
「私、何も尋ねていないわよ。」
「あ、いや、そのぅ、愛さんも立川まで行くかなぁ〜とか、いろいろと」
「いつもそういう言い方なのね。ハッキリしない男はモテないわよ。
ハイ、私も立川乗り換えよ。その先は残念ながらご一緒できないけど・・・」
「ははは、立川までで十分ハッピーですよ〜なんちゃって。
・・・すいません、タネ明かしの続きお願いします」
立川行きのモノレールが発車した。車内は、他の電車みたいな騒音が無く、
意外に静かなので、誠は声のトーンを少し抑えて、話を続けた。

「ふふふ、いいわ。ねえ誠くん、うちの学校には、
愛称を考えるための頭脳が、何人分あると思う?」
「え?委員会のメンバーの数ってことなら、今はまだ4人・・・たっけな?」
「委員会のメンバー以外が考えちゃいけない、って決まりは無いわよ」
「じゃあ、先生方全員の数、40人位?いや、もっといましたっけ?」
「もっといるわ。40人どころか、そのザッと10倍以上ね」
「ええ〜っ?そんな・・・。からかわないで下さいよ。
何百人も先生がいる学校なんて、聞いたことないです」
「私、先生の数とは言ってないわ。頭脳の数よ。よく考えてご覧なさい、ここは学校よね」
「え?頭脳・・・学校・・・。そうか、生徒だ!」
「そう、全校生徒の数を入れると、上北台高校には何百もの頭脳がある。
これを利用しない手は無いわ」
「先生の呼び名を、生徒に考えさせるんですか!」
「そう。生徒に一般公募をかける」

「オレなんて、きっと変なアダ名つけられちゃうんだろうな・・・。
本当にヘンなのしか出て来なかったら、やっぱり教員が決めるんですよね」
「いいえ、あくまで生徒作品から投票で選ぶの。
既に愛称を持っている人を除く全教員の分をね。
誠くんの言うように、ヘンなのは確かに出てくるかもしれない。
でも投票になれば、ヘンなのは落ちるわ」
「どうして、そう言い切れるんですか?面白がってヘンなのばっかり採用されそうだけどな」
「採用された愛称の名付け親を表彰するとしたら?ヘンな名前が採用されれば、
名付けた側が恥ずかしい思いをすることになる。生徒もそこはちゃんと考えるはずよ」
「でも・・・待ってください。都教委が認可しなければ、
せっかくの公募作品も陽の目を見ないんじゃ?」
「それを認めさせるのが、私たち委員会の仕事よ。
都教委には、生徒から公募という発想はまったく無かったわ。
生徒が自分たちで付ける名前だからこそ、愛着と誇りを持って使えるし、定着する。
学校の主役は生徒。生徒が活躍できるプランは必ず成功する。
私は、このプランで都教委を説得できる自信があるわ」

誠が愛の説明に圧倒されている間に、モノレールは立川北駅に着いた。
エスカレーターを降りて、JR方面に向かうデッキは、
サラリーマンの帰宅時間帯でごった返していた。
もう、難しい話ができる環境ではなくなっていたので、2人は殆ど無言のまま、
人混みをかき分けて進み、お互いを見失わないのがやっとだった。
JRの改札が近づいたところで、誠はまとめに入った。
「愛さんて、やっぱ凄いです。おれなんかが、絶対に考えつかないような事だし、
それに、都教委まで動かしちゃおうなんて、ほんと尊敬します。
応援しますからね。明日からまたよろしくお願いします!」
それだけ言い終えると、誠は青梅線のホームに消えていった。

愛は、誠の腹黒さを微塵も感じさせない人柄に気を許し、
ちょっとばかり余計な事を喋りすぎたか、
という一抹の不安を感じながら、中央線の階段を降りていった。
その不安が、まさか翌日に的中してしまおうとは・・・。
(続く)

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