長編小説 「愛と誠」(職員室編)

第14話 誠よ、お前もか!

愛は、生徒会室のある場所へと向かっていた。
自分の発案であるはずの、生徒による愛称公募が、
すでに実施の運びになっているという事実を、自分の目で確かめるためだった。

生徒会室では、数人の真面目そうな生徒が、
大きな模造紙でポスターのようなものを作っているところだった。
愛は、そっと覗いて見た。
そこにはたしかに「先生の愛称を、一緒に考えよう!」というスローガンと、
「上北台は、先生を愛称で呼ぶことができる学校です。
胸を張って自慢できる愛称作りに、私たちも参加しましょう」
という説明文があった。
愛は、生徒会役員の生徒には何も聞かずに、
職員室へ戻ると、岩島津の席に向かった。

「岩島津さん、ちょっといいかしら?」
「何でしょうか?」
「とっても腑に落ちない事があるの」
「・・・・」
「いま、生徒会室を見てきたわ。あの子たち、
春休み中にはまったく登校していなかった。
なのに今日いきなり来て、愛称公募のポスター作りという作業を、
何の迷いも無く進めていた。ちょっと不自然だと思うの」
「生徒会担当の教員が指導しているんでしょう」
「もちろんそうよ。でも、職員会議で愛称のことが出たとき、
生徒会の話なんかこれっぽっちも出なかったわ。
というより、この学校の教員みんな、
愛称の事を考えるとっかかりさえ見つけられない状態だった。
昨日まで誰も考えてなかった事が、今日、急に実行に移されているって、
絶対おかしいと思いませんか?」
「黒幕は生活指導部の中にいて、柏田がスパイってことか…。
柏田は愛さんの計画を事前に聞き出し、黒幕に教えた…。それだけの事です」
「ええ、私も最初はそう思いました。でも柏田はシロだわ。
私、自分のプランを柏田には一切話していないもの。あっ!」
ここまで話して、愛はそのまま凍り付いたようになってしまった。
「愛さん、どうしました?手がかりになることを思い出したのですか?」
「岩島津さん、ごめんなさい。私、ちょっと確かめたいことができたわ。また後で…」
愛はそれだけ言い終えると、一目散に職員室を後にした。

その頃、誠はサッカー部の顧問として、早速グランドで生徒たちと一緒に汗を流していた。
ふと、グランドの隅の方から近づいて来る、愛の姿に気づいた。
誠はホイッスルを吹くと、「お〜い、10分休憩!しっかり水分摂っとけよ〜」
と指示し、愛の方に駆け寄った。
「いや〜、愛さん。サッカー好きなんですか?」
「いえ、好きというほどではないわ」
「じゃあ、もしかして、オレを見に来てくれたんですね?なんちゃって〜、ハハハ」
「大事な話があって来たの」
「・・・すいません」
「教えて欲しいことがあるの。正直に答えて。生徒会の子たちが、
愛称公募のポスターを作っているわ。誠くん、もしかして何か働きかけたりした?」
「白川さんに言いました。女王様が凄いことを思いついたから、僕らでサポートできたらいいなって」
「あ〜、やっぱり誠くんの仕業だったのね。ほんとに口が軽いんだから・・・」
「迷惑でしたか?」
いつもポーカーフェイスの愛が、こんなにも不快感を露わにしたのを、誠は初めて見た。
「オレ、愛さんがまだ上北台の生徒をよく知らないだろうと思って・・・。
前からいる先生たちでフォローすれば、計画もスムースに進むかな〜って思ったんです」
「その気持ちだけ頂いておきたかったわ。私は私なりに、作業手順を考えてあったの。
計画が狂っちゃったのよ。私に断りなく、余計な手出しはしないでくれる?」
誠の返事を待たずに、愛はグランドから離れて行った。

誠は、愛の後ろ姿を、虚ろな目で見つめていた。
愛が見えなくなるのと入れ替わるように、そこに高浜由紀が現れた。
「誠くん、完璧よ」
誠はまだ緊張から解放されていない面もちで、由紀の方を向いた。
「由紀さんに言われた通りにしました。
由紀さんの名前も一切出してませんから、愛さん全く気づいてないと思います。
でも、愛さん、すごく迷惑そうでしたよ・・・」
「安心して。次の指示は追って出すわ。サッカーを続けなさい」
「はい。ではまた後ほど…。失礼します」
誠は、サッカー部員たちのいる方に戻っていった。由紀は冷たい笑いを浮かべた。
(続く)

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