長編小説 「愛と誠」(職員室編)

第15話 水面下の攻防


部活を終えて職員室に戻った誠は、何かスッキリしないものを感じていた。
愛は、しばらくの間は、口もきいてくれないだろう。
前日の高浜由紀とのやりとりを思い出しながら、
誠は「これで良かったんだ。これが愛さんのためなんだ」と、
自分自身に言い聞かせ続けた。

あの時、高浜由紀はこんな風に切り出した。
「誠くんには、とっても大事な任務をお願いしたいの。
もちろん、最前線で女王を守る任務よ。引き受けてもらえるかしら・・・」
「任してください!愛さんを守るためなら、たとえ火の中、水の中ですよ!」
「じゃあ、お話するわね。女王がこれから何を始めようとしているのか
探り出して、私たちに教えて欲しいのよ」
「…。オレに、スパイをやれってことですか?」
「聞こえは悪いけど、そういうこと。ただ、目的はあくまで女王のサポートよ。
女王は上北台に着任したばかり。真っ暗闇の中を手探りで進むようなものだわ。
私たちは、女王の進む方向を事前に察知し、
気づかれないように障害物を取り除き、深い谷があれば橋を架けておく。
女王が安全に前進するためにね」
「わかりました!由紀さんの、あふれる思いやりを無駄にしないように、全力でやってみます」
「ありがとう!」
「結果は明日報告しますね」
「ダメ!今日中に知らせて。携帯番号を教えるわ」
「え〜っ?一刻を争うような話なんですか?」
「いや…、あ、そうそう、女王は行動力があるから、
プランをどんどん実行に移してしまう可能性があるでしょ。
私たちは、とにかく遅れを取っちゃだめなのよ。ねっ」
「はい、わかりました。必ず今日中に電話します。
あ、愛さんが帰り支度を始めてる!じゃ、オレ、行ってきます」
誠は由紀のそばを離れ、愛の方に近づいた。そして、立川駅までの道のりを利用して、
愛から愛称に関するプランを聞き出すことに成功した。

誠は東中神の自宅に帰り着くなり、すぐに約束通り由紀に電話をかけ、
愛との会話の一部始終を伝えた。由紀は再度、何があっても
女王に「チーム由紀」の存在を悟られないよう念を押した。

さて、その直後、由紀が柏田に電話したことを、誠は知るはずが無かった。
由紀から指示を受けた柏田は、翌朝一番で生活指導主任の白川のもとに走り、
愛称委員会の委員長という立場で、生徒会を使って大キャンペーンを張るよう依頼をした。
この件は管理職の意向でもあることを強調し、さらには、
ポスターに書くキャッチフレーズに至るまで、非常に具体的な提案だったこともあって、
白川は、この内容が委員会の場できちんと練られたプランであると信じて疑わなかった。
生活指導部の朝打ち合わせで、この件が報告されると、
誠は自分のことのように嬉しくなった。
「それ、愛女王様のアイデアですよ。みんなで応援しましょう!
僕からもお願いしま〜す」と言った。するとパンチが、
「おめぇ、女王の何なんだ?」と突っ込み、周囲の笑いを誘った。

白川は、始業式の場ですぐに生徒会役員を集め、
柏田から指示された、いや正確には高浜由紀の指示である作業内容を伝えた。
誠もサポート役を任命され、喜んで引き受けた。
役員の子たちは大ハリキリでポスター作りを開始した。
そんな一連の動きを全く知らなかった愛は、午後の委員会初会合で、
生徒による愛称公募を提案したのだった。

4月6日も夕方になっていた。
愛は自分の席で1人考え込んでいた。
その時、岩島津が愛の横にやってきた。
「愛さん…。」岩島津は、いつになく真剣な眼差しで、愛の方を見つめた。
(続く)

< 第14話へ戻る     第16話へ進む >
目次へ戻る