長編小説 「愛と誠」(職員室編)
第18話 誠ピンチ!
4月7,8の両日は連休、それが明けた9日が入学式だった。
総務部は入学式の担当部署であるため、柏田も愛も、
この日ばかりは式を滞りなく終えることに専念するしかなかった。
愛称委員会や、先週のやり取りについては、互いに触れることもなく、
朝から忙しく動き回っていた。
入学式の様子は、他校と比べて特に変わった様子も無く、
唯一特徴的だった事といえば、校長がシゲルと名乗った点くらいだった。
シゲル校長は式辞の中でも、わざわざ、本年度中に全職員を愛称で呼ぶことを、
新入生とその保護者に向けて公約した。
翌10日は、どの学年もほとんどオリエンテーションの一日だった。
愛は、学校要覧という名の、統計資料みたいな冊子作りに追われた。
他にも、他校だったら学年の担任副担任が分担すると思われるような仕事が、
いくつか総務に回ってきているようだったから、
柏田の被害者意識が強くなったのも理解できる、と愛は思った。
誠の方はというと、この間ほとんど生徒会室に籠もりっきりだった。
誠が生徒会を指導するのは、採用1年目の時以来だったから、多少は不安もあった。
しかし、すべてを任せてもらえたことで、誠は喜々として仕事に励むことができた。
そんな誠の様子に、愛も気づいてはいたが、動きを探りに行く時間的余裕も無く、
またそのつもりも無かった。ここは岩島津に任せておけばいい。
誠が再び暴走するようなことがあれば、岩島津が抑えてくれるはずだ。
少なくとも、愛と岩島津との約束ではそうであった。
実際、岩島津はマメに生徒会室に現れた。岩島津の姿が見えるたびに、
誠は必ず「お疲れさまです」と声をかけた後、生徒会の仕事の進み具合を報告した。
それに対して岩島津も、簡単にではあったが助言を与えた。
この日の午後は、新入生と上級生との対面式が予定されていて、
生徒会役員たちの準備も佳境に入りつつあった。
教員も生徒も、誰もが新しい1年の始動を感じ、学校中が活気づいていたが、
総務部だけが、あたかもその流れから取り残されているようだった。
午後になり、職員室が閑散となったことに愛は気づいた。
対面式が始まったので、ほとんどの教員が体育館に行ってしまったのだった。
愛は、膨大な枚数の書類を相手に、集計みたいなことをやらされていた。
柏田も同じ作業をやっているとばかり思っていたが、いつの間にかいなくなっていた。
愛も対面式の様子を見ておきたいとは思ったが、ここで仕事を中断して、
柏田に攻撃材料を与えるのも面倒なので、一人職員室で作業を続行した。
これは、いま体育館で何が起きているかを知らないのが、愛ただ一人という事を意味した。
その頃、体育館は大騒ぎになっていた。
ステージ裏手では、数名の教員が怒声を飛ばしながら口論していた。
対面式は中断し、館内で待たされている全校生徒には、
生徒会役員が「しばらくお待ちください」を繰り返すだけだった。
それ以上の状況が伝えられることはなく、徐々に騒ぎ出す生徒も出始めていた。
誠は生徒会担当として、この場をどうしたものかと困惑した。
岩島津さんは?こんな大事な時になぜ見あたらないんだ?
誠は、誰かを頼ることしか考えられない自分が情けないとは思いつつも、
本当にどうしたらいいのかわからず、藁にもすがる思いだった。
愛さんだったら、こんな時どうするだろう?
愛さん、頼む。ここに来て、力を貸してくれ!奇跡を起こしてくれ!
誠は心の中で叫び続けるしかなかった。
(続く)