長編小説 「愛と誠」(職員室編)
第19話 誠まだまだピンチ!
体育館で行われていた対面式で、異変が起きたのは、
ちょうど誠がステージ上で、生徒会長からインタビューを受けている時だった。
2人の教員が、血相を変えてステージ方向に駆け寄ってくるのが見えた。
ステージの脇にいる生活指導主任の白川に向かって、
何やら激しく抗議している雰囲気が感じ取れた。
そこにもう1人合流したかと思うと、副校長の佐川も呼ばれた。
メンバーだけを見ると、体育館の前方で突然始まった、臨時の主任会議という様相だった。
誠は不安だった。明らかに、この対面式の内容が問題になっていて、
しかも場内の様子が急変したのは、自分がステージに上がってからのことだ。
自分がまた何かミスをしたと考えるのが自然だが、でも何が失言だったのだろう?
・・・とその時、白川が誠に向かって叫んだ。
「おい!マコト!」
白川は手招きしていた。
「えっ!? オレ、そっち行くんすか?」
本番中の出演者の身である誠は、一瞬ためらったが、非常事態であることは疑いなかったので、
「少々お待ち下さい」
とマイクで断ってから、白川のところに駆け寄った。
「おい、マコト。詳しいことは後回しだ。とりあえず、このコーナーを中断して、
何か他のネタでつないでろ。いいな」
白川はそれだけ言うと、戻ってしまった。
そして、さすがに生徒から丸見えの場所で口論はまずいと判断したのか、
白川が、その場に集まっていた教員全員を裏手に誘導した。
誠は、素早くステージに戻ると、もう一度「少々お待ち下さい」を言い、
生徒会長を舞台袖に引っ込めた。
何か他のネタでつなげと言われて、誠も困るが生徒はもっと困るだろう。
案の定、会長は事情も解らぬまま、突然の台本逸脱にパニックになって、泣き出してしまっている。
誠は必死に智恵を絞った。
「先生紹介とかどうだろう?ほら、この学校にも名物先生みたいな人、いるだろ?
何人かピックアップして、口癖とか紹介しちゃったり…」と、役員の子たちに提案してみたが、
みんな「急には無理です…」と尻込みを繰り返すだけだった。
陰マイクで「もう少々お待ち下さい」を繰り返すのも何度目かになり、
対面式が中断されてから、そろそろ10分になろうとしていた。
新入生は静かに待っていたものの、後ろの上級生たちは、大声で
「いつまで待たせんだよ!」「帰っていい〜?」などと騒ぎ始めていた。
誠は本当にどうしたらよいか解らなくなった。
白川が何らかの結論を持って、次の指示を出してくれるか、
岩島津がいつものようにアドバイスしに来てくれるのか、
どっちでもいいから早くしてくれ、と祈るような気持ちだった。
この混乱の様子を、岩島津弘は、体育館の一番後ろのギャラリーから眺めていた。
やがて、その同じギャラリーの特等席に高浜由紀も現れた。
二人は1メートルくらいの間隔で並び、同じように黙ったまま、
無人となったステージ上と、フロアで騒いでいる生徒たちを、
ボンヤリと眺めながら、微笑んでいるように見えた。
(続く)